阿部 和唐(あべ わとう)
1937年、阿部合成(画家)、なを(人形作家、料理研究家)の長男として東京杉並に生まれる。父に絵画と彫刻を、母に人形制作の薫陶を受ける。父のアトリエは、太宰治、山岸外史、檀一雄、亀井勝一郎らの溜まり場であり、詩人、画学生、音楽家などの居候に囲まれた環境に育った。3歳の時、父より一塊の油粘土を与えられ、物を創ることに目覚め、以来、寝食を忘れ創り続ける。中学生の時、一般公募展に出品、連続して特選受賞。以後、作家活動に入る。一時期、音楽家を志し、放浪の旅に出たが、陶芸に専念、現在に至る。
阿部和唐 略歴
1952年 | 産経新聞人形展 特選 |
1953年 | 産経新聞人形展 特選 |
1955年 | 日展評議員安原喜明氏に師事 |
1956年 | アジアオリンピック展 銀賞 |
1960年 | 朝日新聞現代人形展 特選 |
1962年 | 朝日新聞現代人形展 特選 |
1964年 | 朝日新聞現代人形展 朝日賞 |
1965年 | 上野松坂屋個展 |
1966年 | 朝日新聞現代人形展 審査 |
1967年 | 上野松坂屋個展 日本伝統工芸新作展 初出品奨励賞 |
1968年 | 横浜野沢屋個展 新宿京王百貨店個展 日本橋高島屋個展(春・秋) 京都高島屋個展 |
1969年 | 日本橋高島屋個展(春・秋) 横浜野沢屋個展 日本橋下村画廊個展(72年まで毎年開催) 長野県蓼科高原に築窯 |
1970年 | 日本橋高島屋個展(春・秋) 日本橋丸善個展 |
1971年 | 日本橋三越本店個展 |
1973年 | 伊東市宇佐美に窯を移す |
1974年 | 帝国ホテル個展(春・秋) 日本伝統工芸展 初出品入選 青森RABテレビ催(青森市、弘前市、八戸氏にて個展) 日本橋三越本店個展 |
1975年 | 横浜高島屋個展 帝国ホテル個展(春・秋) 札幌丸善個展 日本伝統工芸新作展 奨励賞 |
1976年 | 帝国ホテル個展(春・秋) 青森RABテレビギャラリー個展 |
1977年 | 青山吉野ギャラリー個展 日本橋三越本店個展 日本工芸会正会員 |
1978年 | 名古屋華画廊個展(以降、隔年開催) 銀座松屋遊びのギャラリー個展 |
1979年 | 銀座ラ・ポーラ個展 |
1980年 | 銀座松屋遊びのギャラリー個展 |
1981年 | 新宿京王百貨店個展 |
1982年 | 日本橋三越本店個展 |
1983年 | 東京八重洲画廊個展 全日本伝統工芸選抜作家展 出品 |
1984年 | 全日本伝統工芸選抜作家展 出品 大阪和光個展 銀座松屋遊びのギャラリー個展 新宿京王百貨店個展 大阪松坂屋個展 新宿ワシントンホテル個展 |
1987年 | 日本橋三越本店個展 |
1988年 | 松山はくび陶苑個展 |
1989年 | 日本橋三越本店個展 日本工芸会(日本伝統工芸展)退会、 以後フリーに 青森松木屋個展 |
1990年 | TKCサロンにて室内楽と共に個展 |
1991年 | 日本橋三越本店個展 益田スタジオ個展 岐阜高島屋個展 |
1992年 | 日本現代秀作美術バルセロナ展出品 TKCサロンにて室内楽と共に個展 青森市民美術館個展 |
1993年 | 日本橋三越本店個展 阿部和唐常設ギャラリー土火天、 伊豆高原にオープン 金沢INAXギャラリー個展 |
1994年 | 倉敷三越個展 |
1995年 | 日本橋三越本店個展 青森市民美術館個展 佐賀紙泉堂ギャラリー個展 |
2010年 | 日本橋三越本店個展 |
2014年 | パリ個展 |
Photo by Kayoko Abe
ワトウさん
母上の阿部なをさんから初めて和唐さんを紹介してもらった30年ほど前。変わった名前だなあと思った。和唐。和と唐。和の国と唐の国。今風に言えば日中両国だ。いにしえより、和と唐は文化的に深く結ばれた国だった。しかし、和唐さんがこの世に誕生した1937年は、何と日中戦争が勃発した年。そんな状況下でこの名前を子供に授ける両親の思いの深さ、大きさがしのばれる。名前の通り、和唐さんは覗き込んでも底が見えない深さと、怖れを知らない大らかな人である。それゆえにか、それなのにか、よくわからないが、時にじれるような苛立ちで身悶えしたり、決して曲がらない頑固さを発揮して周囲をうろたえさせることもある。そんな時も、子供のような好奇心と心のままに動く行動力が旺盛な和唐さんは、うろたえる周囲を置き去りにして、次の瞬間には何かに夢中になって、さっさと心が駆け出してしまっている。「えっ?」と驚き、「何なんだよ」と呟きながら、凡人たちはとりあえずホッとするという次第。
一方、大らかなようでいて、とっても薄いガラス細工のように、繊細で傷つきやすいので、取り扱いにはけっこう厳重な注意が必要という厄介なところもある。三歳の時に画家の父上から油粘土をもらって、様々なものを作っては壊してまた作っていたという。風の音を聞き、物の姿を見極め、命の細部に目を凝らし、それを油粘土で形にしていく。心を研ぎ澄ませ、指先から作品があふれ出す。でも壊せば消えてしまう。喜びと儚さと、儚さの先の再びの喜びなどを子供心に感じていたのだろうか。泥を丸めて泥団子作って以上終了だった者とは、明らかに違うのである。研ぎ澄まされた心を抱えて、土から楽器の世界にさまよい、再び土に戻り、プロフィール的には確か今年77歳になっているはず。はず・・というのも何か変だが、ある時は3歳の無垢な幼児のようでもあり、ある時は多感で迷いまくる少年のようでもあり、ある時は千年、万年生きてる仙人ようでもあり・・要は・・和唐さんって、思わずハグしたくなる何ともかわいい人なのである。
2014年8月17日 吉永みち子
土が笑い、物語る「ようこそ、阿部和唐の世界へ」展
阿部和唐 個展
Wato Abe solo exhibition in Paris
会期:
2014年 10月9日(木)〜10月16日(木)11:00〜19:00
※ 12日(日)午前休廊/13日(月)休廊
会場:
Galerie Hours-Champs(ギャラリー・オルシャン)
WEBサイト »
住所:
13, rue de Thorigny 75003 Paris France
※ パリ ル・マレ地区・ピカソ美術館近く
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アクセス:
メトロ8号線/Saint-Sébastien – Froissart(サン セバスチャンフロワサール)駅より徒歩7分
メトロ1号線/Saint-Paul(サン ポール)駅より徒歩10分
3歳から土に親しんだ阿部和唐氏は、土と呼吸を合わせ、その内側に隠れた可能性を探ります。「力を入れながら力を抜く、指先はピアニッシモでありフォルテッシモ」だと話す阿部氏は、壺にもランプにも個性豊かな「顔」を描き出します。本展「ようこそ、阿部和唐の世界へ」では、概念にとらわれない造形の魅力と陶芸の可能性が打ち出されました。豊かな物語性、そして何よりも温かみのあるユーモラスな表情に、思わず顔をほころばせる来場者たち。
みな心和ませ、芸術談義を楽しげに交わすひとときが過ごされました。
出展作品一覧
陽のあたる場所へ/花泥棒/風穴/慈しみ/カデンツァ/動/母と子/ラルゴ/忘れたのね/踊る/舘/海辺の街(常夜燈)/トッカータ/奸計/恋わずらい/Aの音をください/寒い朝/テノールだもん/皆があなたを待っている/豆/家に帰りたい(二重構造)/野辺/浮世の風(掛花/二重構造)/紅涙/柔らかかった(二重構造)/箸置き(6対)/追憶/想い出して…(。花器)/あの娘が通る/五本目の煙草(灰皿)/化石I/化石II/化石III/絞る/脱皮/地図にない街(常夜燈)/黒(二重構造)/やすらぎ/桃太郎/ひな祭りI(12対)/ひな祭りII(12対)/十六夜/ごろにゃーん(箸置き5対)
評論
EAP(美術学校)美術史教授
今にも動き出しそうな阿部和唐さんの陶器作品。建物や人々の姿かたちが、表情豊かにひとつの世界観を創り上げている。フランス人なら巨匠ドーミエが思い起されるのではないだろうか。阿部作品の物語に生きる人物は、家族との暮らしや、ごく近しい社会とのかかわりのなかで心を通わせ合っている ── 嫉妬、欲望、悲哀といった感情の深みまで。人間の生活の根本を表現する素材として、「土」という陶器の持ち味がこの上なく活きている。
来場者の声
私は「ひな人形」の調和した空間に惹かれました。形式美と言うのでしょうか、伝統的に人形の配置が決まっているのですね。顔がどれもかわいらしくて、楽器のつくりも素敵です。日本文化の面白さをまたひとつ、発見しました。
もうそんな時間ですか? いつのまに。ここまで熱中して展覧会を見たのは久しぶりですよ。楽しかった。ご招待に感謝します。
原点回帰と言って良いのでしょうか。上手く言葉にできませんが、休火山のように激しさを秘めたイメージ。目には見えないけれど、地の底のうねりのようなものを感じるんですよね。
「地図にない街」、これは素晴らしいですね。洞窟住居のような壁面にはプロヴァンスの陽光が射しているのでしょう、きっと。
主役の「桃太郎」よりも、ユニークなお供の動物たちに釘付けになりました。犬・猿・雉と、まったく違う種族なのに、家族のような絆を感じます。見ていると、故郷の家族に会いたくて仕方がない気持ちになるんですよ。不思議な力を持った作品です。
2人の赤ん坊が乗る「豆」の船の形は、お母さんの乳房でしょうか。温かくて優しい、心に残る作品です。
私は細かくて精巧な造形が好きなのですが、「化石」は実に見ごたえがあります。壺の全面から蛇の鼓動が聞こえてきそうです。
Created by Wato & Associates.
Copywriter: Michiko Yoshinaga
Photographer: Koichi Moriya
Art Director: Toyohiko Yano
Web Design: Mitsuhiro Togo